竹川侑子[歌人] ※ページ内のすべての画像はクリックすると見やすくなります。 竹川侑子の関連作品 「山桜早く咲きしを喜びて 人は告げをり縁にいで来て」 「僧堂の広き床にて喫茶せし 五十年前人懐かしき」 「海の上の限りなき空夕映えの 朱移るとき善悪はなし」 「ななかまどの花白く咲き北海道の おそかりし春リラの紫」 「てのひらの上に薬壺持ちましし 古代如来に救はれんとす」 「かすかにも潮の香のしてオホーツクの 海原に立つ波の青さよ」 「雪消えて間なくつぼみのつけゐしが 今年の著莪の花も終れり」 「豪雪になほ降る雪に日が差せば 神を拝めるごとくに見上ぐ」 「釈迦仏に供へん膳を作りゐる 正月にして吹雪つのり来」 「今しばし無常迅速の埒のそと 青葉を吹ける風に佇む」 「決断は飛躍をせしと思ひしが よはひより来る省略ならん」 「今宵飲む新茶は木の芽の匂ひして 水張田窓の遠くまで見ゆ」 「勤行の大太鼓の音内深く ひびきて現身は透きゆくごとし」 「岩肌を落ちくる滝の白々と くぬぎ林に降る雨無尽」 「六尺の雪見灯籠に初雪の 被く静けさ朝の光に」 「雲海の雨風のなか登りゆく 草木あやしく揺るるのみにて」 「秋の夜に遠雷鳴りて降りいでし 音まばらなる雨の寂しさ」 「涅槃会の法要終へし境内に 三月の午後の日差しあまねし」 「梨の木より花の吹き入るわが部屋に 日暮の気配やうやく迫る」 「本堂の掃除の疲れも充足か 淡雪の降る空を仰げり」 「降る雪を嘆きてゐしがたちまちに 松の内過ぎ日脚のびたり」 「百穂の記念館の庭に枝長く しだるる桜は時をとどむる」 「合歓の花終はりしあとに色青き さや実の育つ充実たのし」 「床の間の暗きに活けし芍薬の 花音せしがややありて散る」 「安置せるみ骨をわれの守るとき 心迫りて母を呼びにき」 「日溜りに臥しゐる犬は自らの 鼓動あらはに晒して眠る」 「樹木なき故に索漠と吹く風か 宵深き街帰り来たれば」 「一族が長き年月拠り来たる 墓一つ今日都市に移れり」 「古文書の解読にわが通ひゐて 文禄二年の連歌親しも」 「降る雨はにはかに秋の気配して 夕づきたればさびし墓原」 「僧の夫の三朝祈願の鐘の音が この新しき空気にひびく」 「栗の木は株ごとそがれ拠りどなく 広き平らの土になりたり」 「奢りなきこの僧堂に雲水の 読経ひびけば何を極むる」 「逝く夏のさびしさ土にたよりなく 咲ける茗荷の白き花々」 「かんばせのおもむろにしてみがかれし 聖観音の胸厚く見ゆ」 「亡き母の家にあまたの福寿草 咲きてひと代ははかなかりけり」 「合掌に人を送りてそこはかと 立つ雪の香は冬のぬくもり」 「暗く長き廊下を素足に歩みゆく いま総持寺の夜坐につくため」 「十六羅漢見上げつつゆく山中に 若葉の光風にし揺るる」 「夕はやくいでたる星は大きくて世界の平和われは祈らん」 「元旦の参道の雪除雪車に払ふ夫は冷えつつあらん」 「かすかにも笑みをたたへて思惟仏は指の先にも謙虚が見ゆる」 「かなかなはやさしく啼きて身籠りし今日のみ仏弔ふに似ん」 「新米を釈迦に供へん何気なきかかる日頃を積み重ねゆく」 「春秋にかかはりのなく用ふれば和箪笥の中作務衣増えゆく」 「春雷の間遠になりて降る雨は雪に吸はるる夕べの明り」 「かくばかり夏をたたへて轟ける花火に兆すひとつかなしみ」 「淡き灯は夕べの靄に連なりぬ西方浄土を思ひゐるとき」 「かがやける日々はやわれに過ぎにしか木蓮の花音あるごとし」 「幾百の僧と参禅の幾百人つつみて永平寺山内浄し」 「三十三観音菩薩をめぐれるに苔むす台座にすみれ咲きをり」 「樅の木に降り積む雪の落つる時立つ雪煙滝のごとしも」 「五百羅漢ましますみ堂も夏の日の沈まんとする幽けさの中」 「すさまじく風の鳴る宵星一つかがやきて空と雪原近し」 「雪降れば雪に従ひ生きゆかん晴天の日をかく喜びて」 「蒼く澄む今日の夕暮雪原の遠くの空に星はかがやく」 「境内はただにしづまり門灯に映ゆる夜ふけの雪の白妙」 「永平寺の暁天禅のすがしさはわが現身にひびきてやまず」 「涅槃会の読経は長く続きゐて折々の日が境内にさす」 「連翹の黄は点るごと咲きをりて今年の春も過ぎて行くらし」 「五月五日立夏に新茶届きたり釈迦牟尼仏に点てて捧ぐる」 「眠りさへ生くる時間と思へれば疲れし時の眠りを許す」 「新年の三朝祈願の堂内の灯し明るし庫裡より見えて」 「葉桜が長く枝垂れて武家屋敷歩む人等に時とどまらん」 「奥羽嶺の伏流水の湧き出でて冷たき水に米を炊きをり」 「透明に光る満月明らけく鎮もる寺の屋根を照らせり」 facebookでシェア Twitterでシェア LINEでシェア